ギルトトリップ – 相手を操るために罪悪感を与える方法と心理

ギルトトリップ - 相手に罪悪感を与えて操作する虐待方法

ギルトトリップ(guilt trip)とは「相手を操ることを意図して相手に罪悪感を与えること」を指す。相手に罪悪感を与えて「自分が悪かった」と思わせることで「償わなければ」という義務感を持たせ、思い通りに操る。相手を罪悪感で支配する虐待であり、モラルハラスメントであり、精神的暴力だ。物理的な暴力に訴える必要がないため、母親や妻など女性が主に使用する。

ギルトトリップとは

ギルトトリップ(guilt trip[1])とは「相手を操ることを意図して相手に罪悪感を与えること」[2]を指す。ギルトトリップは、恋愛関係、夫婦、親子など、感情的に密接なつながりのある関係の中で効果的に使われる。相手に罪悪感を与えて「自分が悪かった」と思わせることで「償わなければ」という義務感を持たせ、思い通りに操る。

  1. 「自分が悪かった」や「自分が傷つけた」や「自分が信頼を損なった」のような、相手が本来なら持つ必要のない罪悪感を意図的に植え付ける。
  2. 相手に自分の選択や行動が間違っていたと感じさせる。
  3. 相手の「償わなければ」や「癒やさなければ」や「信頼を回復しなければ」といった義務感を刺激する。
  4. 相手の考えや行動を自分の意図したとおりに変えさせる。

ギルトトリップは相手を罪悪感で支配する虐待であり、モラルハラスメントであり、精神的暴力だ。ギルトトリップの使用者は経験から、最小限の努力で最大の成果を得ることができることを熟知しており、意図的・計画的にこれを使う[3]。親密な関係において特に有効であり、物理的な暴力に訴える必要がないため、母親や妻など女性が主に使用する。

罪悪感を抱かせることができるなら、殴る必要はない。

エリカ・ジョング(アメリカの小説家・詩人)

罪悪感を煽ることは、望む行動を相手に取らせるために短期的には極めて有効だが、代償もある。長期的には、信頼関係を損ね、人間関係の破壊につながるのだ[4]。なぜなら、私たちは以下の各例からギルトトリップを見破ることができるからだ。ギルトトリップを見破ることができれば、拒絶もできるようになる

罪悪感を与える方法と言い方

罪悪感は最も便利で用途の広い心理操作の手段であるだけに、利用頻度がきわめて高い。心理操作をする人は、私たちがすべきことではないことをした、あるいはすべきことをしなかった、と指摘することによって罪悪感を持たせ、しばしば成功をおさめる。

「人生がうまくいくとっておきの考え方」ジェリー・ミンチントン p147

人間関係において、相手に罪悪感を与えてよい状況はない[5]。相手に罪悪感を与えるギルトトリップは攻撃者と被害者の関係を破壊する。以下に代表的なギルトトリップの方法を紹介するが、これらはすべて相手に罪悪感を与える方法であり、悪用厳禁だ。これらの方法の存在を知ることで、あなたはギルトトリッパーから自分の身を守ることができるようになる。

ギルトトリップの意味と例

不機嫌さを口に出さず態度で示す

不機嫌さを態度で示すのは、典型的な受動的攻撃だ。受動的攻撃とは、一見すると無害であるように見せかけた攻撃である[6]。怒りや不満、失望などの否定的な感情を直接伝えにくい場面において、口では「うんわかった」や「大丈夫」などと言う一方で、聞こえよがしな溜め息や舌打ち、音を立ててドアを閉めるなどの行動で不快感を示す[7]

ギルトトリップの加害者は、大きなため息をついたり、舌打ちをしたり、ドアや物を叩きつけたり、大きな音を立てて洗い物をするなど、怒りや落胆や苛立ちなどの否定的な感情を表す態度や声のトーンを使って、相手に「私が怒らせてしまった」と認識させる。間接的な方法で被害者を否定していることを伝え、罪悪感を与えるのだ。[8]

恩着せがましく自分の苦労を言い募る

これまで被害者のためにしてあげたことのすべてを列挙することで、被害者は加害者に対してお返しをする義務があることを示唆することも、ギルトトリップのよくある手法だ。被害者は「私はわがままだ」という罪悪感を植え付けられ、「借りを返さなければ」という義務感に駆られて被害者の要求を呑んでしまう。具体的には次のような形だ。[9]

  • 私はあなたのために毎日たくさん苦労しているのよ。
  • あのとき私は○○してあげたのに。本当に大変だったのよ。
  • あなたの誕生日のディナーは2万円もしたのよねえ。
  • 今月も支払いが大変だわ。あなたが○○や○○に使ったから。
  • 私はあれもこれもしてるのに、あなたは○○だけって不公平よね。

加害者の要求は明示されることもあれば、明示されず被害者が自分で察しないといけない場合もある。いずれの場合もすべきことは決まっている。加害者のために苦労や金銭を被害者が支払うことになるのだ。被害者は自分の負担が不公平に軽いかのような罪悪感を抱き、加害者のために動いてしまう

対話を拒否し話し合いに応じない

意見の相違がある場合や、希望に沿えない正当な事情があった場合などは、双方で話し合って妥協点を探るか、別の結論を導き出す必要がある。しかしギルトトリッパーは話し合いに応じない。加害者は、被害者が問題について話そうとするのを無視し、冷たい態度を取る。これが被害者側が完全に譲歩して加害者の望む通りになるまで続く。

加害者は、何が問題なのかや、どうして欲しいのかを直接的に言おうとしない。しかし、怒っているように振る舞ったり、よそよそしく振る舞ったりして、罪悪感に苛まれた被害者が自ら察して動くまで、ひたする話し合いを拒否する。加害者は状況を改善するために自分からは何もする気がなく、被害者が思い通りに動くまで消耗戦を続けるのだ。[10]

話し合いを求めて加害者の態度を指摘しても無駄だ。「怒ってないわ」や「別にイライラなんてしてないわ」などとピシャリと否定され、場合によっては火に油を注ぐ結果になる。加害者が明らかに動揺しているように見えるような場合でもこれは同じだ。加害者の意図は罪悪感で被害者を操作することにあり、実際の状況には興味がないのだ。

過去の失敗を何度も持ち出して責める

現在の状況とはまったく無関係な過去の失敗を何度も持ち出だして繰り返し責めるのも、相手に罪悪感を植え付ける効果的な方法だ[11]。ギルトトリップの目的は相手に罪悪感を持たせて自分の思い通りに操ることだ。このため、罪悪感を与える材料は現在の事象である必要はなく、過去の落ち度や失敗でも十分に機能する[12]

  • いつもあなたはこう。本当に成長しない。
  • あの時もあなたはこうだったじゃない。
  • あなたは絶対に○○しないよね。この前もそう。

女性が何度も過去の同じ失敗を蒸し返しては怒りを露わにすることについては「女性の脳はプロセス指向共感型脳である[13]」や「女性の記憶はエピソード記憶として感情と紐付いている[14]」のような理由付けがされる。しかし女性の脳や記憶の構造がどうであれ、虐待を正当化する理由にはならない。女性だから虐待しても許されるということはない。

皮肉や嫌味を言ってなじる

ギルトトリップでは、皮肉や嫌味も効果的に使われる。これらは痛烈であることもあれば、冗談めかしたものであることもあるが、いずれにしても目的は決まっている。被害者に罪の意識や恥の意識を持たせ、加害者の意図どおりに動くように仕向けることがその目的だ。よくある皮肉や嫌味には次のようなものがある。[15]

  • 私はあなたにとってそんなに大切じゃないよね。
  • 私の話なんて聞きたくないのかと思ってたわ。
  • とっても忙しいのに無理に時間を取ってくれてありがとう。
  • 私なんかと一緒に出かけるのは恥ずかしいよね。
  • 私のことなんて気にもしてないかと思ってたわ。
  • やっと私のことを見てくれる気になったのね。

こうした皮肉や嫌味を受け取り続けた被害者は、相手をぞんざいに扱っているという罪悪感を抱く。そしてその罪悪感を追い払うために、ギルトトリップの加害者を優位な立場に置く一方で、自分を劣位な立場に置いてしまう。これこそが、ギルトトリップ加害者の意図していることだ。

道徳や常識や他人と比較して責める

ギルトトリッパーが相手の誤りを指摘したり要望を伝えたりするとき、自分の考えを直接主張する代わりに道徳や常識や他人を持ち出す。こうすることで強い自己主張を避けることができるだけでなく、相手を不道徳で非常識であるとする一方で、自分を道徳的で常識的であるとして優位に立つ効果もある。例えば次のような形だ。[16][17]

  • あなたはお友達といかがわしい遊びをしてさぞ楽しいでしょうね。普通なら子供の宿題でも見てあげるでしょうに、子供の悪いお手本ね。
  • あなたはいつも忙しいからって会いにも来ないし電話も寄越さないのね。隣の息子さんと違ってあなたは本当に親不孝だわ。
  • 私が夕食を作って待ってても、あなたは連絡もしてくれない。お友達や会社の人には小まめにメッセしてるのに、私には冷たいのね。

これらを健全に言い換えると、順に「子供の宿題を見てほしい」や「もっと会いに来てほしい」や「帰宅時間をメッセしてほしい」となる。そのようにストレートな主張を避けながら、相手を不道徳で非常識であると非難することで罪悪感を植え付け、相手が自分から選択や行動を変えるように仕向けるのだ。

そこにいないかのように存在を無視する

ギルトトリップの加害者は何か問題が起きたとき、相手が先に謝罪し譲歩するまで相手の存在を無視して、まるで相手がそこにいないかのように振る舞うことがある。これはサイレント・トリートメント[18]と呼ばれる受動的攻撃だ。黙殺し、無視することで、直接的な対決を避けながら不満や怒りを表現し、相手を罰することができる。[19]

相手をそこにいない透明な存在のように扱うことは、存在そのものを認めないという最大級の侮辱であり、注意に値しないという蔑視であり、いじめや虐待における中心的な手法の一つだ。被害者は耐えきれずに、問題の原因は自分にあったと思い込み、罪悪感を覚え、譲歩してしまう。

強い言葉を使って直接的に非難する

ギルトトリップでは、ここまで述べてきたような受動的な攻撃ばかりでではなく、より直接的に罪悪感を直接呼び起こす言い方が使われることもある。この場合ギルトトリッパーは「正直で率直な言い方をする」ことを口実として、相手を傷つけることを言う。次のようなことを恒常的に言うなら、それはギルトトリップであり、罪悪感の植え付けだ。[20]

  • そんなことしたって無駄よ。前もそうだったじゃない。
  • どうせいつもみたいに飲み過ぎるんだから、もういい加減にしたら?
  • そんなに太って、私のいないところでいいものを食べ過ぎてるんじゃないの?
  • あなたは思いやりがなさすぎる(自分勝手すぎる)わ。
  • あれも、これも、それも、まだできてないじゃない。やるって言ったわよね?

上記のように非難の対象は、過去の失敗だけでなく、まだしていないことにも及ぶ。こうした非難を四六時中、休むことなく浴び続ければ、嫌でも罪の意識に苛まれる。自尊心は弱まり、あらゆる活力が失われ、逆らう気力もなくなる。これこそがギルトトリッパーの狙いだ。

責任転嫁し被害者のように振る舞う

失敗を相手のせいにすることや、自分が相手に傷つけられた被害者であるかのように振る舞うことは、ギルトトリッパーが相手に罪悪感を抱かせる最強の切り札だ。ほとんどの場合、ここまで述べてきた罪悪感を与える方法と言い方のすべてと併用される。被害者に責任を転嫁しながら被害者ぶる理路は次のようになる[21]

  • あなたの都合に合わせたからこうなったのよ。
  • あなたが手を貸してくれなかったせいよ。
  • あなたのことを思ってしたことじゃないの。
  • もともとはあなたが言いだしたことでしょう。

ギルトトリッパーは、相手の行動がいかに自分を傷つけたかを長々と話し、自分自身の決定による失敗や傷付きまでもをすべて相手のせいにする。自分は無謬の被害者であって決して悪くなく、悪いのは常に相手のほうである。ギルトトリッパーにかかれば、どんなことでも相手に罪悪感を植え付けるための材料にできるのだ。

罪悪感を抱かせる心理

ほとんどの人がこれまでに何度かは、罪悪感を煽ることで他者からの同情を引いたことがあるだろう。しかしそれだけでは有害な人間であるとは断言できない。しかし目標達成のために罪悪感を植え付けて他人を操り、それを繰り返すなら、それは有害な操作であり、虐待、モラルハラスメントであり、ギルトトリップだ[22]

ギルトトリップは親子や夫婦のような親密な関係の中で起きる。ギルトトリップは、相手がギルトトリッパーのことを気にかけていて、ギルトトリッパーの痛みや苦痛を自分のもののように感じてくれる場合に特に有効な方法だからだ[23]。ギルトトリッパーの心理や、被害者になりやすい人の特徴は、この関係性をふまえると理解しやすい。

ギルトトリッパーの心理

他者に罪悪感を抱かせる心理の裏にあるのは、自他境界の曖昧さだ。パートナーや子供はギルトトリッパーとは完全に別個の存在であり、別の感性を持ち、別の考えを持っているが、ギルトトリッパーはそれを正しく理解する能力を欠いている。このため拒絶されることを恐れて自分のニーズを率直に伝えることができず、操作に頼ることになる[24]

  1. 自他境界が曖昧で、パートナーや子供がそれぞれ自分とは異なる感性や考えを持った別人格であることへの理解が低い。
  2. パートナーが逆らったり、子供が言うことを聞かないなどの拒絶に遭うと、自我を保つことが困難になる。
  3. 拒絶を恐れるあまり、要望を明確に伝えることができず、要望を曖昧にしたまま通すためにギルトトリップに頼る。

ギルトトリップは、自分のニーズを直接的にわかりやすく伝える能力を持たない人が利用する。このため、苛立ちや腹立ち、悲しみを抱えていてもそれを適切に表現できない場合にもギルトトリップが起きる[25]。つまりコミュニケーション能力に問題のある人が、自分の思い通りの結果を得るための安易な選択肢としてギルトトリップを使う[26]

コミュニケーション能力の問題は、幼少期の環境に起因する可能性もある。親に逆らうことの許されない家庭で自分のニーズを親に封じ込められて育った人は、健全なコミュニケーションの方法を学ぶ機会がなかったために、ギルトトリップに頼るのだ[27]。または、NPDやBPDのようなB群パーソナリティ障害の可能性もある[28]ので注意が必要だ。

被害者になりやすい人の特徴

ギルトトリップの被害者になりやすいのは、ギルトトリッパーの夫や子供や恋人など親密な関係にあり、人を傷つけることを嫌い、人の痛みを自分のことのように感じやすい人だ。つまり、道徳的で良心的、心の優しい人が被害者になりやすい。ここまで述べてきたように、ギルトトリップは他人の罪悪感を刺激する操作だからだ。

犠牲者が良心的に優れていればいるほど、その良心につけこんで相手の自信や不安を揺さぶり、自分の意に従わせておく手口にたけているのだ。相手が良心的であればあるほど、相手に罪悪感を抱かせるというこの手口はさらにその効果を発揮する。

「他人を支配したがる人たち ─身近にいるマニピュレーターの脅威」ジョージ サイモン p170

また、相手を喜ばせたいという気持ちもギルトトリッパーの前では仇になる。UCLA精神医学臨床学部に所属する精神科医のジュディス・オルロフ博士は自身のブログ記事で、ギルトトリッパーについて「自分の思い通りにするために、あなたが相手を喜ばせたいと思う気持ち、良い人でありたいという気持ちを利用する」と説明している[29]

罪悪感が生活や心身にもたらす害

罪悪感を持つことは、社会的にも精神的にも有害だ。罪悪感は誰の状況も改善しないどころか、悪化させてしまう。罪悪感に押しつぶされそうになる苦しさは誰もが知っているだろう。それが常態化すれば、あらゆることが悪い方向に進む。しかもギルトトリップにおいては、その罪悪感は本来なら感じる必要のないものだ。

自分がしたことではなく、他人が自分にしたことから、罪悪感はもたらされる。

マーガレット・アトウッド(カナダのブッカー賞作家)

本来であれば持つ必要のない罪悪感に苛まれて過ごすことは、社会的にも精神的にも有害だ。罪悪感は誰の状況も改善しないどころか、悪化させてしまうことが、各種の研究からわかっている。次項からは、罪悪感と健全な後悔の違いと、人間関係や被害者の精神衛生と子供への悪影響について述べる。

罪悪感と健全な後悔の違い

後悔と罪悪感は異なる。後悔とは、過去の自分の選択や行動を悔やむことであり、誤りを認めて別の選択や行動へと修正することができる。その一方で罪悪感とは、自責の念に執着することで「不足」や「誤り」から抜け出せない[30]健全な後悔は自己責任を受け入れるきっかけになり有益なものだ。

後悔を抱き続けることは好ましくない精神状態だ。もしあなたが間違ったことをしたなら、悔い改めて、できる限りの償いをし、次回はもっと正しい行いをするよう自分に言い聞かせることだ。

オルダス・ハクスリー(イギリスの著述家)

抱く必要のない罪悪感をいくら抱いても、非生産的であり時間と労力の浪費だ。同じ時間と労力を費やすのであれば、人生にとって何か価値のあることに費やしたほうがずっといい。過去を変えることはできないのだから、過去に犯した過ちに対して自分を責めることほど無駄で有害な行為はない[31]

人間関係への悪影響

相手に罪悪感を抱かせることは、自分の思い通りにするための戦略だが、幸せな人間関係につながることはまずない。自分を操作するために罪悪感を利用する人物を好ましく思い続けることは不可能だからだ[32]。罪悪感とは、ある行動に対する感情的な罰だ[33]。罰を与え続ける人から心が離れるのは自然なことである。

米オークランド大学の心理学教授ニコラ・C・オーバーオール博士らによる2014年の研究[34]では、ギルトトリップは恋愛関係において代償がともなうことを明らかにした。ギルトトリップの標的となった人は「自分は操作されている」と感じて恋愛関係を解消しようとする可能性があるという。

精神衛生への悪影響

過剰な罪悪感を経験することは心の健康と幸福感に悪影響を及ぼし、悲しみ、心配、不安、後悔、不眠、筋肉の緊張など、不快な感情や症状を引き起こす[35]。米ヴァンダービルト大学のカルロス・ティルマン=オズボーン博士らの2010年の研究[36]は、持続的な罪悪感が不安、鬱、強迫性障害を悪化させることを明らかにしている。

罪悪感を抱くことが恒常化すると、自尊心や自己イメージに悪影響を及ぼすことがあり、それは社会的な引きこもりや孤立の原因となる[37]。イタリア学術会議技術研究所のマリア・ミチェリ上級研究員らによる2018年の研究[38]では、罪悪感は自尊心に悪影響を与え、孤立を促進することを明らかにしている。

子供の成長への悪影響

自分が受けている心理的虐待に気付く能力が未発達な子供は、親からのギルトトリップを無防備なまま経験してしまう可能性が高い。そうした子供は、低い自尊心などの感情的・情緒的な問題に苦しむ可能性が高く、また、親を避けるように成長する可能性が高い[39]。子供は特に傷つきやすく、発達に問題を抱えやすいことに留意すべきだ。

親によるギルトトリップを受けた子供は、自分の問題を解決するためにギルトトリップを使うことを学ぶ可能性がある。またそうではなく、罪悪感を植え付けられることによって「何をやってもダメなんだ」という思い込みと低い自尊心を持つ可能性もある。子供に対する親は、ギルトトリップを使わずに健全なコミュニケーションを実践すべきだ[40]

罪悪感を植え付けてくる人への対処法

ギルトトリップは、精神衛生や人間関係に多大な損害を与える。とりわけ精神衛生へのダメージは大きい。罪悪感に対処することは、活力、気分、意欲、自尊心に深刻な打撃を与える。このためギルトトリップを向けられた場合、単に無視するのではなく、自分を守る措置を講じる必要がある[41]。以下にその方法を示す。

相手との関係性を再点検する

あなたが罪悪感を与えられていたとしても、もしかしたらそれは正常な範囲内のことで、直ちに関係性を見直すほどでもないかもしれない。自分が何に対処しているのかをよく確認する必要がある。以下の各項に当てはまる場合、またその度合いが大きい場合、あなたは相手からギルトトリップを受けている。[42]

  • 期待に応えるために疲労感がある – 十分に期待に応えている感覚を持つことができず、常に不十分さを感じるなら、あなたは底なし沼を埋めるために自分を犠牲にしている。
  • 受け取るよりも与えるほうがが多い – 感情的なケアや各種の責任などを不公平に多く担っていると感じるなら、関係は対等なものではなく、あなたのほうが常に多くを与えるように操作されている。
  • 承認されず拒絶されていると感じる – 何をしても、またはしなくても、常に非難や反対に遭い、感謝や労いがまったく得られないなら、あなたの行動が正解とみなされることは今後もないだろう。

自分が対処しようとしているものがギルトトリップやそれによってもたらされる罪悪感であることが分かったなら、ギルトトリップを拒否する仕事が待っている。これには困難をともなうが、やるだけの価値はある。いまは苦しみの中にいても、ギルトトリップから逃れることで、あなたの人生は見違えるほど改善する

ギルトトリップを拒否する

自分の問題とギルトトリップを分離しよう。ギルトトリップを使う人の問題は、その人自身の問題であって、あなたの問題ではない。はっきりと「それはあなたの問題であり私には関係がない」と言えばよい[43]。例えば次のような言い方で、罪悪感を植え付ける人に対処することを検討しよう。

  • あなたが私に罪悪感を与えてコントロールしようとしていること、私はすでによく知っている。
  • 仮に私があなたの意図どおりに動いたとしても、それによって私はいつも損した気分になっている。
  • 自分の望みを叶えたいなら、最初から私を動かそうとするのではなく、まずは自分でやってみることが先だ。
  • 目的を隠したギルトトリッピングで操作されることよりも、私は素直に頼まれるほうが願いを聞き入れやすい。
  • 私は自分にできることをできる範囲でするが、その範囲を決めるのは私自身であってあなたではない。

罪悪感を植え付けてくる人に対処するには、自分の優先順位と限界を知っておく必要がある。期待に応えるために自分の限界を超えてしまう場合は明確に拒否すればいい。その結果、どんな反応が返ってきても気にする必要はない。他者の期待に応えることよりも自己防衛を優先することは当然のことで、その選択に罪悪感を持つ必要はない。[44]

まとめ

ギルトトリップには、ごくたまに発生して不快感を与えるだけの軽いものから、絶えることなく向けられて精神の健康と幸福を破壊するような極端な例まで様々だ。しかし程度の軽重はどうであれ、ギルトトリップは自尊心や人間関係に深い傷を残す。感情的な虐待にまで事態がエスカレートする場合は、できる限りその場から離れよう。[45]

この記事中で述べた対処法を試しても効果がなく、状況がエスカレートするような場合には、関係を切断することを躊躇すべきでない。たとえギルトトリッパーが親や配偶者であったとしても、それらが攻撃者であった場合、自分の身を守ることに躊躇する必要はないし、当然、罪悪感を抱く必要もない。 [46]

脚注

脚注
1guilt」は不可算名詞で「罪悪感」を、「trip」は他動詞で「つまずかせる」や「転ばせる」をそれぞれ意味し、無理に訳すなら「罪悪感攻撃」となる。日本語には存在しない語彙だ。
2guilt tripの意味・使い方|英辞郎 on the WEB
3, 33, 42, 44Is Guilt-Tripping In Relationships A Form Of Abuse?
4, 26, 32, 35, 37What Is Guilt Tripping and How to Deal with It?
5, 15, 27, 45Guilt Tripping: How To Recognize It + Respond | mindbodygreen
6passive-aggressive | APA Dictionary of Psychology
7, 19What Is Passive-Aggressive Behavior? | healthline.com
8, 10, 20, 46Guilt Tripping in Relationships: Signs, Causes, and How to Deal With It
9, 39Warning Signs Of A Guilt Trip And How To Resist It | BetterHelp
11, 21, 41Guilt Tripping: Signs and Tips to Respond
12, 31「人生がうまくいくとっておきの考え方」ジェリー・ミンチントン
13「過去の過ちを何度も蒸し返す妻」に苦悩する夫のための“逆転の一手” | PHPオンライン衆知|PHP研究所
14エピソード記憶 – Wikipedia
16, 40How to Spot and Respond to a Guilt Trip
17, 24The Psychology of the Guilt-Tripper | Psychology Today
18Silent treatment – Wikipedia
22, 23, 25, 28, 43The Guilt Trip: How to Deal with This Manipulation | PsychCentral
29, 30Do You Have a Guilt Tripper in Your Life? – Judith Orloff MD
34Attachment anxiety and reactions to relationship threat: the benefits and costs of inducing guilt in romantic partners – PubMed
36Definition and measurement of guilt: Implications for clinical research and practice – ScienceDirect
38Reconsidering the Differences Between Shame and Guilt| Europe’s Journal of Psychology