有害な男らしさが問題視される一方で、その対になる概念である有害な女らしさについての議論は少ない。男らしさのステレオタイプに暴力性や支配性のような有害な側面があり、他者や自分自身を傷つけるのと同様に、女らしさのステレオタイプにも弱者性や他責性のような有害な側面があり、他者や自分自身を傷つける。この記事では、海外での議論や研究を基にしながら、有害な女らしさの概要をまとめていく。
この記事の目次
有害な女らしさの定義
有害な女らしさとは、ステレオタイプで時代遅れな「女はこうあるべき」という規範を内面化した人物が、その規範に基づいて他人を妨害したり[1]、他者だけでなく自分自身をも傷つける[2]ことをいう。有害な女らしさによる妨害や攻撃は、わかりにくく偽装され[3]、女性の規範や生物学的特性を言い訳に正当化される[4]。
有害な男らしさについてはすでに多くの議論がある。その一方で、対になる概念である有害な女らしさについての議論は少ない。有害な男らしさが文化に深く根ざした習慣であり根絶すべきものであるのと同様に、有害な女らしさもまた、文化に深く根ざした習慣であり根絶すべきものだ。この記事では海外における議論や研究を中心に概要をまとめる。
人物類型「意地悪な女の子」とその亜種
学校にいた「意地悪な女の子」を誰もが最低1人は覚えているだろう。自分の人気が何より大切で、男子の前では可愛い子ぶり、先生の前では優等生ぶる一方で、同性には嫉妬深く、標的にした人物への悪意ある噂を流し、後ろ指をさし、裏工作で他の人を操る女の子だ。その「意地悪な女の子」は学校を出たあとも、大学や職場や家庭で暗躍を続ける[5]。
この「意地悪な女の子」は有害な女らしさを体現した、誰にも身近な人物類型だ。英語では “mean girl” と呼ばれ、古今東西の童話や小説や映画や漫画など、数多くの物語のテーマとなってきた。しかし、有害な女らしさを表す人物類型はこれに限らない。誰もが容易に想起でき、有害な女らしさを体現する類型は、これ以外にも数多くある[6][7][8]。
- 嫉妬深い彼女 – 自他の境界が曖昧で、嫉妬深く束縛が激しく、密な連絡をパートナーに強要するなど依存的になり、泣いたり脅したりしてパートナーを操作する。
- 悪意ある同僚 – 他の同僚と容姿や仕事などで競い合いながら、故意の連絡ミスや失敗、嘘の助言などで妨害しつつ、偽の笑顔、偽の優しさ、偽の友情で誤魔化す。
- うぬぼれた美女 – 見た目を粉飾することが自分磨きや自己実現になるという誤った信念を持ち、性的魅力を追求しながら、他の女性と自分を比較して嫉妬する。
- 夫をATM扱いする妻 – 夫婦の関係は情愛に基づくものではなく役割と割り切り、冷えた夫婦関係を維持しつつ、夫の給料から隠し資金を蓄財して将来の離婚に備える。
- 過保護な母親 – 完璧な母親でいるために他のすべてをあきらめた犠牲者として振る舞う一方で、子供を支配し自己表現の道具にする。
- 噂好きな主婦 – 噂と詮索を好み、他人の仕事や決断を馬鹿にし、善意のアドバイスに偽装してマウンティングし、他人を悪者に仕立て上げるために状況を操作する。
- 高望み婚活女性 – 自分が相手に提供できる価値を何も持たないにもかかわらず、相手に対しては強欲に経済力や家事能力などを要求をする。
- 意地悪な姑 – 息子の嫁を自分や他家の嫁と比較して馬鹿にし、指導という名目であれこれと注文をつけていじめることで、歪んだ自己愛や息子愛を満たす。
上記のような人物像に当てはまる女性は珍しくなく、誰の知人の中にも複数いるだろう。また多かれ少なかれ、誰もがこうした一面を持つ。有害な男らしさを持った男性が普遍的なのと同様、有害な女らしさを持った女性もまた普遍的なのだ。
共感でつながった集団による私刑
女性の望ましい特性とされる「共感」も、有害になりうる[9]。リバプール大学の進化生態学教授ポーラ・ストックリーとダラム大学の心理学教授アン・キャンベルの研究[10]によれば、女性が好んで使う攻撃戦術は「間接的で表面化しにくい攻撃を、共感でつながった女性たちが連帯して同時に展開し、標的となった人物を私刑にかける」ものだという。
これは女性の集団によるいじめである。女性が集団で寄ってたかって特定の人物や事象をいじめて排除する様子は、学校における少女たちや、職場や地域の女性たち、そしてSNSのようなネット空間など、女性のいる場所ならどこでも見られる。女性による攻撃では次のように、物理的な暴力ではなく、地位を破壊し社会から排除する戦術が採られる[11]。
- 他者の操作 – 友情を偽装する、相手に罪悪感を植え付ける、性的魅力を誘惑的に使う、泣いて同情を誘うなどの方法で他者を操作し、思い通りに動かす。
- 協力の拒否 – 不同意や否定、無視、故意の失敗などの受動的攻撃(無害に見せかけた攻撃:後述)で、標的となる人物の意思や行動を妨害し、協力を拒否する。
- 評判の破壊 – 悪口を含む噂話を流すなどの間接的攻撃で、標的の評判を破壊する。この結果、他の人も標的となる人物への協力を拒否するようになる。
- 社会的排斥 – 標的となった人物を仲間はずれにし、誰からも協力が得られない状況に追い込み、学校や職場や地域社会などでの居場所や地位を剥奪する。
この戦術は、攻撃のためのコストや反撃を受けるリスクが低く、安全な場所から一方的に攻撃できる。しかしこの攻撃の標的になった人物は、居場所や、職や、精神的な健康や、ときには家族や命まで失う。校内のいじめでは不登校や退学者を生み、職場でのいじめでは退職者を生み、ネット上での #MeToo では職も家族も自分の命も失った者もいる。
ジャーナリスト兼作家でニューヨークタイムズの論説コラムニストのミシェル・ゴールドバーグはキャンセルカルチャーを「有害である」と批判した[12]。#MeToo やキャンセルカルチャーでは、客観的事実よりも個人の証言が優先され、法律や司法判断よりも共感や怒りが優先される。有害な女らしさは、とてつもない暴力性と実効性を持っているのだ。
陰湿で効果的な受動的攻撃
有害な女らしさによる攻撃性や害は、有害な男らしさによるそれらよりも、外部から感知しにくい傾向にある[13]。女性による有害な行動は、他者を妨害したり攻撃したり操作することで自分を有利にするものだが、これらは巧妙に隠されるためだ。女性からの妨害や攻撃や操作は、隠蔽された攻撃の一種である陰湿な受動的攻撃の形をとる[14]。
受動的攻撃とは、一見すると無害であるように見せかけた攻撃である[15]。怒りや不満、失望などの否定的な感情を直接伝えにくい場面において、口では「うんわかった」や「大丈夫」などと言う一方で、聞こえよがしな溜め息や舌打ち、音を立ててドアを閉めるなどの行動で不快感を示す[16]。以下はその典型例だ[17]。
- 不満の表現 – 何かの要求をされたときに、つらさ、敵意、憤り、不満、苛立ち、落胆などを、口には出さずに、溜め息や舌打ち、仕草や表情などで表す。
- 意図的な遅延 – 依頼されたことをするのを後回しにしたり、締め切りを守らなかったり、約束の時間に遅刻したり忘れたりすることで、相手を軽視していることを示す。
- 回避と無視 – 電話や電子メールを無視したり、特定の話題について会話を拒否したり、あからさまに無視するなどの行動で、相手とのコミュニケーションを拒絶する。
- 武器化された無能 – わざと間違いを犯したり、効率的ではない作業をしたりすることで相手を困らせ、同じことをまた頼まれないように工作する。
- 不機嫌と悲しみ – 気に入らないことがあると、不機嫌になったり、泣いたり、すねたり、冷たい態度を取ったりすることで、相手から配慮や援助を引き出す。
- 当てこすりと蒸し返し – 体型に悩んでいる人に体型の話題を振ったり、相手の過去の失敗を何度も話題にするなどして、相手を不快にさせる。
- 非難と批判 – 特定の誰かに向けたものではない漠然とした批判を口にしたり、その場にいない人物を批難することで、相手を萎縮させる。
- 苦情の申立て – 感謝されていない、騙されている、被害を受けている、犠牲を払っている、といった苦情を頻繁に訴え、相手に罪悪感を植え付ける。
受動的攻撃はあくまで攻撃だ。南アフリカで精神看護師を対象に実施された2018年の研究によれば、受動的攻撃には他の形態の攻撃と同等の精神的ストレスを与える効果があるという[18]。しかし受動的攻撃は隠蔽されており気付きにくいため、問題に気づいたときにはすでに致命的なダメージを負ってしまっている可能性が高い[19]。
さらに悪いことには、攻撃やその意図は加害者自身にも隠蔽される。女性による受動的攻撃は日常の言動の中に紛れ込んでいて、攻撃者は害意を自覚していない場合もあるのだ。東ミシガン大学女性学修士でありウェイン州立大学カウンセリング修士でもあるカウンセラーの髙山直子は次のように述べている[20]。
皆さんは自分の「不機嫌な言動」によって相手に「察すること」を強要することはありませんか。「いいですよ」と了承しておきながら、相手が自分に背を向けた途端、後ろから大きなため息をつき迷惑がるような風情を醸し出す。
あるいは、自分に都合の悪い内容になると「どうせ私のことなんて嫌いなのでしょう!」とか「私のこと馬鹿にしている!」などと話をすり替えて、相手の罪悪感を刺激して自分が優位に立とうとすることはないでしょうか。
受動的攻撃は、ハラッサーのみが使うアプローチではなく、私たちが日常的に使っている言動の中にも多く含まれています。しかし、そうした受動的攻撃を繰り返し使い、相手の人格や尊厳を傷つけるとモラハラのリスクが高くなります。
令和元年度DV防止講演会(第1回)髙山直子[21]
女性たちは幼い女の子のときから、友好的な口調と笑顔の裏側で、外見や行動をグループの基準に合わせるようにお互いに圧力をかけ合ったり、誰かの良くない噂を流したり、誰かを仲間はずれにするなどの方法で、標的や周囲の人々を操作してきた。こうした長年にわたる訓練で培われた有害な女らしさの前では、男性はまったく無力である。
自己正当化に使うステレオタイプ
有害な女らしさは巧妙に隠されるだけでなく、巧妙に正当化される。女性についてのステレオタイプや生物学的差異[22][23]を言い訳にして、あらゆる有害な行動や決定を「女だから仕方がない」として正当化する。そうした正当化に使われるステレオタイプには、次のようなものがある。
- 精神的に弱い – 重圧や責任から逃れる。
- 肉体的に弱い – 肉体労働や過酷な労働環境から逃れる。
- 社会的に弱い – 社会や周囲の人々から保護や優遇を引き出す。
- 従順である – パートナー(主に男性)から経済的な保護を引き出す。
- 面倒見が良い – 悪意の行動に善意のベールを被せる。
- 自信がない – 行動や責任や役割から逃れ、他の人に押しつける。
- 受動的である – 選択責任と結果責任を回避し、失敗を他人のせいにする。
- お喋り好き – 他愛もないコミュニケーションの形でマウントを取り合う。
- 伝統的に地位が低い – 社会進出や出世への意欲の低さを社会のせいにする。
- すぐに泣く – 泣いて要求を通したり、被害者のように振る舞って周囲の同情を引く。
- 生理やPMSがある – 情緒不安定やパフォーマンス低下や精神的虐待を正当化する。
- 妊娠している – 責任の重圧や肉体労働、長時間労働から逃れる。
- 神聖な母性がある – 育児を独占し、賃労働から逃げ、密室育児を正当化する。
- 性的魅力がある – 他の人(主に男性)から便益や恩恵を引き出す。
- 美貌に価値がある – 美容や化粧による外見の粉飾を自己実現と混同する。
- 罪のない被害者 – 常に被害者として振る舞い、問題解決や責任を引き受けない。
こうした言い訳や正当化は、意識的であることもあれば、無意識であることもある。女性によっては、これらを口実ではなく真実だと思い込んでいることもあるのだ。ステレオタイプで時代遅れな「女はこうあるべき」という規範を内面化した女性からすれば、これらは自己正当化ではなく信念になってしまう。
また、女性が上記のような規範を内面化することは、男性を反対側の規範に閉じ込めることにつながる。男性は強く、支配的で、自信があり、能動的で、地位が高く、寡黙であるべき、といった時代遅れの男性規範がそれだ。この意味で、有害な女らしさと有害な男らしさは表裏一体であり、どちらもなくしていくことが望まれる。
職場における有害な女らしさ
欧米のように夫婦それぞれが独立採算制でお金を管理する文化圏では、女性も従来の男性と同様の稼得を得る必要があり、したがって職場における出世争いや派閥争いに参加することになる。そうした背景から欧米では、職場を舞台にした有害な女らしさがしばしば議論になり、調査・研究され、一般向けの書籍[24]も出版されている。
職場における有害な女らしさは、弱く振る舞うことで慈悲を引き出したり、セクシャリティを悪用して有利に立ち回るようなわかりやすい有害な行動だけでなく、いじめや足の引っ張り合いのように、一見しても認識しにくい形の闘争も問題となる。職場における有害な女らしさは、見えにくい形で職場全体の士気と生産性を引き下げる。
女性による女性いじめ
英インデペンデント紙に発表されたイギリスでの調査によれば、職場のいじめ加害の58%が女性によって行われている一方、被害者の90%もまた女性であり、女性幹部の70%はいじめによって業績や出世が妨げられたと感じているという。この調査結果は、女性がいじめによって他の女性の出世を阻む傾向があることを明らかにした[25]。
女性の集団は男性の集団よりも同調圧力が強い。平等であることを理想とするのはフェミニズム運動のよい面だが、その悪い面として、女性が他の女性の足を引っ張るときにもこの平等原則が現れ、うまく同調できない女性は排除される。そして女性は排除にあたって、もっともらしく悪意がないように偽装するのが上手い。例えば次のような形だ[26]。
- 「飲み会の案内メールをあなたにCCし忘れたわ、私ってバカね」
- 「あなたは子供がいるから、きっと昇進したくないんじゃないかと思ってたわ」
- 「あなたは静かだからランチに呼ぶのを忘れてたわ、ごめんね」
これらの例ように、女性によるいじめは優しい笑顔と親しげな挨拶で覆い隠されたまま続く。こうした暗黙のプレッシャーが職場に蔓延すれば、女性たちは疑心暗鬼になり、職場の空気は悪くなり、全体のパフォーマンスは低下する。しかしその原因が女性同士のいじめにあることに周囲の男性が気付くことは困難だ。
シスターフッドの天井
女性同士の出世争いが激化した場合、事態はより悪いほうへ進む。UCL経営大学院准教授のサニー・リー博士による研究[27]によれば、女性は、他の女性がリーダーになることを妨害したり、女性リーダーの仕事を妨害する傾向があるという。この現象は「シスターフッドの天井(Sisterhood ceiling)」と名づけられている。
女性は仕事上の競争を自己のアイデンティティと同一視し「他の女性の成功は私が劣っている証拠である」と考え、競争が激しくなるほど相手の女性を妨害する傾向があるという。こうしたことは男性同士や男性と女性の場合には見られず、女性同士のときだけに見られる[28]。出世争いにおける女性同士の足の引っ張り合いも、職場における有害な女らしさだ。
有害な役割による弱体化
ロンドン大学の組織心理学博士であるナンシー・ドイルは米Forbes誌上で、交流分析理論のドラマトライアングルの概念を使って職場での有害な女らしさについて説明した[29]。それによれば、職場での女性は、人間関係における3つの典型的な役割のいずれかに引き寄せられ、有害な役割を担ってしまうという。3つの典型的な役割とは次のものだ。
- 迫害者 – 直接的に攻撃し、叱りつけ、支配する。
- 救済者 – 相手への気遣いで仕事を巻き取り、相手の自主性を奪う。
- 犠牲者 – 無力な立場から受動的攻撃によって支配する。
職場における有害な男らしさは「迫害者」の形で現れ、有害な女らしさは「救済者」と「犠牲者」の形で現れる。例えば女性管理職(救済者)が、仕事が多すぎると訴える同僚女性(犠牲者)に配慮し、その女性を重要プロジェクトから外せば、長期的にはその同僚女性のキャリア形成を妨げることになってしまう。
また、女性管理職(救済者)が、自分の仕事に加えて皆の仕事を引き受けてしまえば、他の女性同僚(犠牲者)の成長の機会が奪われるだけでなく、女性管理職当人の燃え尽き症候群に近づく[30]。加えて、女性同士でお互いを監視し合う圧力もストレスの原因になり、全体のパフォーマンスを弱体化させてしまう。
日本国内での議論
有害な女らしさについての日本での議論は多くない。学術的な研究は見つからず、一般向けの書籍もなく、マスコミでやネットメディアで話題にされることもなく、個人がわずかにSNSやブログで発信しているだけにとどまる。その内容は、ここまで挙げてきた海外での議論と重複するものを除くと、焦点は2つ、上方婚志向とダブルスタンダードだ。
経済上方婚志向
日本は女性の経済上方婚志向が高い。というのも、働く妻の年収のボリュームゾーンは150万円以下と低年収[31]であり、自分一人分の生活費すら賄えない稼得しかないため、一家の大黒柱としての稼得を夫に期待せざるを得ない。1986年の男女雇用機会均等法施行からすでに35年以上経つが、日本女性は未だに経済的な自立を果たしていない。
厚生労働省の調査によれば、2019年時点で共働き世帯1,245万世帯に対して専業主婦世帯は582万世帯ある[32]。これは婚姻世帯の32%で妻が無職であることを示す。また内閣府の調査によれば、共働き世帯の妻のうち58%は週35時間未満のパート勤務である[33]。実に、妻の71%は無職の専業主婦またはパート勤務の準専業主婦である。
ニューズウィーク日本語版が報じたところによれば、夫と対等以上に稼ぐ妻の割合において、日本は世界最低レベルである[34]。現在のように女性が政治と経済の分野での活躍を避けている限り、ジェンダーギャップ指数[35]の縮小もない。日本女性の上方婚志向と、賃労働を嫌い男性に依存する性質を、有害な女らしさとして憂う意見は多い[36]。
ダブルスタンダード
多くの女性は、口では男女平等を主張する一方で、デート代を支出させ、ベッドではリードさせ、家計では多くの稼得を要求するなど、ダブルスタンダード(二重規範または二重基準)を便利に使い分ける。これが有害な女らしさとして、海外でも国内でも、主にネット上で頻繁に指摘される。よくある例は次のようなものだ[37][38]。
- 平等な権利を要求しながら、リーダーシップや長時間労働や肉体労働や金銭負担など、権利に応分な義務や責任を負わない。
- 女性は出産や育児でキャリアが断絶してしまうと言いながら、キャリアをあきらめて主夫になってくれる男性をパートナーに選ぶことは絶対にしない。
- 女性が男性を怒鳴りつけるのは話し合いの手段だが、男性が女性を怒鳴りつけることはハラスメントであり許さない。
- デート費用の支出や、ベッドでの男らしいリード、より多くの労働や収入など、男性には多くの負担を当然視しながら、家事育児では平等の負担を望む。
- 女性が情緒不安定になったりヒステリックになるのは生理現象であり許されるが、男性がそのようになるのはその男性が弱さを示すものであり許さない。
- 男性は女性の2倍多く自殺し、11.5倍多く過労死し、18.5倍多くホームレスになっているが、話題にするのは常に女性の死であり、男性の命は無視する。
男女の平等を主張することは正しい。しかしその主張をするのであれば、自分が属する性だけを有利にするような歪曲はすべきでない。フェミニストでライターのジェサ・クリスピンは2017年の著書「Why I am Not a Feminist(未邦訳)」の中で次のように述べている[39]。
フェミニズムは、従来は男性のものとされてきた役割を女性が担えるようにしたのと同じ水準で、従来は女性のものとされてきた役割を男性が担えるようにしただろうか?
ジェサ・クリスピン「Why I am Not a Feminist」
これまで男性が担ってきた役割を手に入れたなら、これまで女性が担ってきた役割を男性が引き受けられるようになるべきだ。また、女性が新しい役割を担うのであれば、相応の負担も引き受けるべきだ。しかし現実では、相変わらずデート代は男性が支出し、主夫はほとんどいない。こうしたダブルスタンダードもまた、有害な女らしさだろう。
有害さは男女ともに持ちうる
男性も有害な女らしさを持ちうるし、女性も有害な男らしさを持ちうる[40]。典型的な男性の特徴とされる暴力性や支配性などは、女性にも見ることができる。女性であっても、組織の中で強い立場に出世すれば直接的な攻撃性が高まり、男性のステレオタイプに近づいていく[41]。また、家庭内などの親密圏では女性の暴力性は顕著だ。
同様に、典型的な女性の特徴とされる受動的攻撃性や狡猾さなどもまた、男性にも見ることができる。男性であっても、陰湿ないじめやキャンセルカルチャーへの参加など、女性のステレオタイプに近い行動をとる者もいる。私たちは皆、男性的な特徴も女性的な特徴も持っていて、それによって他者や自分自身を傷つける可能性がある。
そんな中で、有害な男らしさだけを問題視し否定する一方で、有害な女らしさを無視したまま黙認するというダブルスタンダードは許されない[42]。有害な女らしさが確かに存在することを確認し、それが男女ともに持ちうるもので、男女ともを害するものであることを認識することが、有害な女らしさのない世代を育てる第一歩になる[43]だろう。